――元祖バイプレイヤーズの大杉漣さんが、第2シリーズ『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』の放送期間中、2018年2月21日に収録先で急逝されました。その大杉さんが『バイプレイヤーズ』を映画にしたいと以前からおっしゃっていたとか。

はい。『バイプレイヤーズ』のチームは大杉漣さんを座長にキャスト・スタッフが集まっている感じで、現場でも漣さんを中心に「これが映画になったらいいよね」って話すことが多かったんですよ。それが今回、劇場版をやることのいちばん大きな理由になっていると思います。

ただ、“大杉漣抜きの『バイプレイヤーズ』”については、関係者みんな各々の想いがあったと思います。僕自身も、どうにか第2シリーズをやりきったあと、『バイプレイヤーズ』とは一度距離を置きたかった。だから今回の劇場版、並びに第3シリーズに関しては、監督という立場を受けるべきか、どうなのか?という葛藤は非常にありましたね。
それでも踏み切ったのは、まずプロデューサーの浅野敦也さんの熱意。そして他ならぬ漣さんが『バイプレイヤーズ』の映画を望んでいたこと。これががやっぱり大きくて。あと第2シリーズが図らずもああいう形になってしまったので、「楽しい形で締めくくりたい」っていう気持ちもあって。途中で放り出すのではなく、何らかの決着をつけようと。

――今回は撮影所が舞台ですが、そもそも『バイプレイヤーズ』の根幹って映画やドラマ作りを支える役者さんへのオマージュですよね。それがいちばん良く表われた企画かも。

そうですね。名脇役たちが本人役を演じるというリアリティドラマのスタイルですが、普段の作品では主演を張る「スター」と呼ばれる人がいて、その周りに「バイプレイヤーズ」がいる。ある種の職人として、自分の仕事を粛々とやり続ける方々。彼らの存在こそが、作品の質や魅力を支えている……。そんな在り様へのリスペクトを主軸に、おじさんたちの矜持とか、愛おしさを表現したいという狙いが明確にあって。
オープニングが『レザボア・ドッグス』のパロディになっているんですけど、タランティーノ監督こそ、名脇役に注目してメイン(主役級)に持ち上げることの達人ですからね。

――そこも松居監督のアイデアで?

いや、漣さんが「スーツを着たい」って(笑)。第1シリーズは舞台がシェアハウスだったから、本編のほとんどは部屋着なんですね。だからオープニングくらいは、サングラスとスーツでキメたいと。
あと『バイプレイヤーズ』をやる前から、元々のメンバー6人が集まって、みんなで『レザボア・ドッグス』みたいなのやりたいよねって話していたことがあるらしいんですよ。それを踏まえてのアイデアですね。

――結果的に大反響を呼びましたよね。イケオジブームの先駆けでもあるような。

でも確かに「僕もこういう6人の姿、客として観たいわ」って。圧倒的に芝居のうまい面々がそろって、これだけふざけたことを嬉々としてやってるんですから。
ただ実のところ、第1シリーズの第1話を撮った時には、まだ僕らスタッフ側に余計な気負いがあったんです。台本のページ数も段取りも多いし、6人みんなが揃うスケジュールがなかなかないので、一日に撮る分量がすごく多くなっちゃったんですね。「カットもきちんと割って」とかなってくると、みなさんが疲れてしまって(笑)。夜、呑みたいのに、撮影が延びてクタクタになっちゃって。
そこで「ちょっと待てよ」と。そもそも6人で楽しいことをしたいと思って始めたのに、「やらされてる感」がすごいと(笑)。
で、一度バーストして、プロデューサー陣や僕が呼び出されて。あの6人がみんなサングラスかけて並んで、「このままでやる?」みたいなこと言われて。めちゃくちゃ怖かったです(爆笑)。

――それ自体、『バイプレイヤーズ』のワンシーンみたいですね。

光石研さんは端のほうで「ごめんね」みたいな顔をしていて。6人のバランスがいつも通り。
それから台本のページ数を一気に10ページくらい切って。できるだけユルく撮れるようにしたんですね。そこからバイプレイヤーズの6人はアドリブが増えていって、台本どおりの台詞はほとんど言わなくなりました(笑)。

――有機的なグルーヴが生まれてきた。でも最初は結構かっちりしてたんですね。

窮屈な現場にしちゃってたんでしょうね。最初の段階で「もっとリラックスして、一緒に作っていこうよ」みたいな教えを得られたのは、そのあとのシリーズを続けるうえで非常に大きかったです。

――今回の劇場版と第3シリーズは大群像劇になりましたね。劇中でも言及がありましたけど、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を連想させるような……『レザボア・ドッグス』から綺麗な流れですよね(笑)。富士山のふもとにある郊外の架空の撮影所「バイプレウッド」に、役者を100人集めちゃおうという壮大な企画です。

劇場版に関しては、最初は『忠臣蔵』みたいなアイデアで話していて。もう変遷がいろいろあったんですけど、撮影所の中っていう設定はコロナ禍を受けて出てきたものなんですね。この困難を逆手に取るというか、「密」な状況になれないから都内のスタジオはすぐいっぱいになって、日本中の役者が郊外の敷地が広い「バイプレウッド」に集まっている……という設定ならコロナ禍でのリアリティが担保できる。しかも民放各局の連続ドラマチームが同じ撮影所の、各スタジオ内で動いているという(笑)。

――その一方で劇中、コロナ禍での撮影ガイドラインの話なんかは一切しなかったですよね。

しなかったです。さりげなく消毒用のアルコールを置いたりとか、ちょこちょこ現状を反映させてはいるんですよ。ただ、あえて露骨には言及しない。それを口に出して言うと、映画の世界が現実に引き戻されてしまう。

――夢が壊れる、と。

観る人はみんな大前提としてコロナ禍の世の中を知っているから。無視はしないけど、口に出して言う必要はない。現実なんてフィクションが凌駕して、楽しい世界観の中で夢を見たい、と思うから。

――お話の順番としてはドラマシリーズの全12話を受けてからの、劇場版ですよね。ただ映画単体だけでいきなり観ても、ちゃんと腑に落ちるようにできている。

良かった! そこは気を遣いました。『バイプレイヤーズ』を知らない人でもストレスなく楽しめるようにしたかったから。
映画に関しては、濱田岳さんチームと、天海祐希さんチームと、元祖バイプレイヤーズの各パートが並行して展開して、ちょっとずつゆるやかに交わっていく。映画の序盤のシーンでは、配信ドラマ『小さいおじさん』を撮っているおじさんたちがミニチュア状態になって登場するんですけど、あそこに関してはきっちり絵コンテを描いて、CG部と綿密に打ち合わせして、カメラの角度も細かく合わせて。それが撮影初日で、えらい時間が掛かったんですよ(笑)。

――『バイプレイヤーズ』本来のユルさとは真逆の、緻密さが求められる作業ですよね。

やっぱり劇場版はお祭りなので、映画のルックとしての面白さはしっかり提示したい。役者が100人出ることもそうですし、画の見せ方……犬の風(ふう)が主軸になっているところだったり、撮影所が台風に襲われるとか。こういうのは、たぶんテレビより、映画館で観るほうがわくわくすると思うので。
ドラマシリーズのほうは今回もアドリブが多いです。ただ劇場版のほうは、元祖バイプレのメンバーのシーンはおなじみのノリなんですけど、全体的には脚本の設計図を守る方向で。ドラマだと各回のお話がシンプルなんで、どう脱線してもだいじょうぶなんですけど、映画はパズルみたいに構成しているので。「ここで脱線したら、ここで回収できない」という問題もあったんですよ。
それでも他の映画の一般的なノリからすると、アドリブは多いと思います。

――きっちりした枠組みの中で、役者たちの自由なお芝居が生きているところが随所にありますよね。

そうですね。明らかにいま、現場のグルーヴが起こっている!というシーンがあって。
やっぱり軸となる濱田岳君の力量が大きい。彼は「受け」系なんですよね。現場で何が来ても受けられるし、対応できる。他の役者さんのパワーを濱田君が受け止めて、また返す。そのへんは撮っていても面白かったですね。力のある役者さんたちの相乗効果というのは、まさに『バイプレイヤーズ』の真髄だなと思いました。

――本人役の濱田岳さんが初監督作『月のない夜の銀河鉄道』の撮影過程が主軸になっていて、その主演が犬の風(ふう)だという。最後に大杉漣さんが白い子犬を抱いている写真が出てましたけど、「風」という名前も大杉さんゆかりのものですよね。

あの写真は漣さんの奥さんからいただいた本物なんですが、大杉さんが生前、風という名前の愛犬を飼ってらして。「漣さんを中心に映画を作りたい」ってなった時に、風という撮影現場の大好きな犬がいて、撮影所の所長が実は漣さんで……という設定にしようと。
風のことはエッセイとかでもよく書かれてましたから、漣さんのファンだったら、このオマージュがわかる。でも、あくまでさりげない形で差し出すことにしました。声高に説明するのは『バイプレイヤーズ』らしくない気がして。
ちなみに犬の演出も大変でした。「ワン」って吠えて欲しい時に吠えないし、こっちに来て欲しい時にあっちに行くし(笑)。いつも自由で楽しそうで、漣さんみたいでした。

――最後に、新シリーズ&劇場版を世に出すに当たってのメッセージをお願いします。

撮っている最中も胸の痛むニュースがいろいろ飛び込んできたんですよ。だからこそ現場でよく言っていたのが「問答無用に楽しい作品にしよう」ってこと。
あと今回は「ものづくり」の現場を描いた作品でもあります。芸術とか、物語とかが、こういう風に作られていくんだ、ってことを楽しく伝えたい。現場そのものを丸ごと愛してもらえたら、エンタテインメントの大切さへの理解も進むと思うんですよね。
映画やドラマは、生身の人間たちが一所懸命にそれぞれの想いを込めて作っているものです。その夢がいっぱい詰まった今回の劇場版は、僕自身が思った以上に「ぜいたくさ」を感じられるものでした。この映画で素敵な夢を見て、またあの人たちに会いたい、という気持ちになってもらえたら。
初めて観る人にも、ドラマシリーズを愛してくれた人にも。

©2021「映画 バイプレイヤーズ」製作委員会